第2章

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 これまで父さんが、土日祝日に家にいたことなど皆無に等しかった。  父さんは、テーブルの上に重ねてあるここ二、三日の新聞を指先で開いたり閉じたりしていた。  テーブルを挟んで父さんの真向かいに座ると、母さんは瞬きをした。 「ねえ、しばらくあなたのお義母さんの家にご厄介になれないかしら。……ほら、うちの実家は妹夫婦がいて駄目だから」  不安だという心の中の様子をそのまま声のトーンに表しながら、訴えている。  僕は、昨夜の僕の予想が当たったと思った。 「だって今日は、ご近所の佐々木さんのとこの息子さんがいなくなったのよ。佐々木さんの家ってうちのすぐ近くじゃない」 「ご近所の子供がいなくなったからって、うちの子供がいなくなると決まったわけじゃないだろう」  鬱陶しげに父さんは、指先から新聞を離した。 「そりゃそうだけど……。でも、もしうちの子がいなくなったら……」 「やめないか」  父さんが、幾分大きな声を出した。 「母さんの家は今ごたごたがあって行けないって、この間言っただろ。それに、俺も今ここを離れるわけにはいかないんだ」  母さんが黙っていると、父さんは励ますようにその肩を軽く叩いた。  けれどそれは、ひどくわざとらしい動作に見えた。
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