3人が本棚に入れています
本棚に追加
これまで父さんが、土日祝日に家にいたことなど皆無に等しかった。
父さんは、テーブルの上に重ねてあるここ二、三日の新聞を指先で開いたり閉じたりしていた。
テーブルを挟んで父さんの真向かいに座ると、母さんは瞬きをした。
「ねえ、しばらくあなたのお義母さんの家にご厄介になれないかしら。……ほら、うちの実家は妹夫婦がいて駄目だから」
不安だという心の中の様子をそのまま声のトーンに表しながら、訴えている。
僕は、昨夜の僕の予想が当たったと思った。
「だって今日は、ご近所の佐々木さんのとこの息子さんがいなくなったのよ。佐々木さんの家ってうちのすぐ近くじゃない」
「ご近所の子供がいなくなったからって、うちの子供がいなくなると決まったわけじゃないだろう」
鬱陶しげに父さんは、指先から新聞を離した。
「そりゃそうだけど……。でも、もしうちの子がいなくなったら……」
「やめないか」
父さんが、幾分大きな声を出した。
「母さんの家は今ごたごたがあって行けないって、この間言っただろ。それに、俺も今ここを離れるわけにはいかないんだ」
母さんが黙っていると、父さんは励ますようにその肩を軽く叩いた。
けれどそれは、ひどくわざとらしい動作に見えた。
最初のコメントを投稿しよう!