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「心配するな。いざって時は、北海道でもどこでも一家揃って避難しよう」
どうしてそこで場所の名前に北海道が出てくるんだろう。
僕は寒いところはどちらかというと苦手だ。
それに、いざという時とは、一体どういうことなのだろう。
父さんの言う『いざという時』には、もう既に僕らの中から犠牲者が出ているかもしれないというのに。
僕は父さんが、僕たち兄弟に対して本当に愛情を持っているのか、時々疑いたくなる。
父さんの頭の働きは、仕事や金を中心にして動いているに違いない。
これらの事件が起こり始めた時の父さんは、事件の話をどこか遠いところで起こった関係のない事件のように上の空で聞いていた。
母さんはしばらく何かを言おうとしていたが、父さんがその場を去ってしまったので、仕方なく僕の朝食を作りにキッチンに戻った。
僕もそれを見て、洗面台の方へと向かった。
すっかり顔を洗うのが遅くなってしまった。
顔を洗いながら僕は、家族揃ってこの町から逃げ出していった家族がいるという話を思い出し、少し羨ましく思った。
そのあと、その考えの後を追うように、佐々木さんの家の子供の顔が、ふいに思い浮かんだ。
その子は僕よりも年齢がひとつ下だったが、直接言葉を交わしたことはなかった。
でも顔立ちはよく覚えている。
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