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「雅臣、私が何故ロールケーキが好きなのか知っていますか?」
唐突に、何がそんなに楽しいのか、にこにこと笑う楓に首を傾げる。
確か、物心ついた頃にはもう楓の三時のおやつはロールケーキだったような気がする。
「お前の亡くなった母親が、お菓子作りが得意だったんだろ」
ふわふわした人形みたいな可愛らしい人だったのを覚えている。
楓のおやつの時間にはいつもあの人が色んなお菓子をつくってくれて、イベントの度にケーキを…………
…ん?
「ロールケーキ以外も、作ってたな?
……亡くなってからか?」
「はい。
お母様はクリスマスにブッシュドノエルを作ってくれる約束をしていたんですが、結局その約束は叶わないまま、亡くなってしまいました
覚えていますか?雅臣」
そうだ。
確か、楓は毎日毎日泣いていた。
大きな目が開かない程真っ赤に腫れて、声が出なくなるまで泣いて、小さい体のどこにそんなに沢山の水が入ってんのかってくらい涙を流して。
部屋の隅で、自分よりも大きなテディベアにしがみついていた背中が痛々しかったのを覚えてる。
その時の気分を思い出してしまって、何となく目の前のふわふわした頭を撫でてみた。
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