柚と浮浪者

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 まず男の太い指が電灯の光の中へ忍び込み、その形をあらわにした。 皺が濃く浅黒い指は一本一本に毛が生えているのがよく分かった。 それが男の体重を支えているのか力強く大地を掴み取ろうとする。  続いて、もう一方の腕も見えてくる。そして二つの腕を追って男の顔が浮かび上がった。  四十を過ぎたくらいの年齢だろうか。 少し禿げた頭が赤くなっていた。 ところどころに抜け落ちている歯も、かろうじて残った部分が黒ずんでいた。  光の中で鋭い目が柚を見つめると、男は下卑た笑いを柚に見せつけた。
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