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隼人はグラウンドわきの土手に寝そべっていた。
まだ陽が高い。
上空をゆっくりと雲が流れてゆく。
こうして雲を目で追っていると、しだいに心が静まってくる。
死んだとしても不思議はなかった。
ただ隼人の本能が死を拒んだ。
孤立した状況の中、気力を振り絞って、敵の裏をかき、逃げまわった。
その結果、ここにこうしている。
「ここにいたの?」
顔を向けると、桜が見下ろしていた。
にこりともせず、歩み寄ると隼人の横に腰を下ろした。
「気象観測でもしているの?」
「そんなところかな」
隼人は気の抜けた様子で答えた。
臆病な兎が巣穴に逃げ込んで、ほっと息をつくように、今は一人きりになりたかった。
笑みを浮かべることさえわずらわしい。
隼人は寝そべったままぼんやりと空を見続けた。
「大したものだったわ」
しばらくして桜が口を開いた。
桜の目は閑散としたグラウンドに向けられている。
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