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「来たのね」
外に通ずる『ハズだった』自室の扉を開けると、そこには、夢の中だけの存在だった、あの鍵子がいて、俺の顔を見上げるなりダルそうに一言そう呟いた。
「……お前が呼んだんだろ」
「来たのは、あなた」
反論しようとして止める。
そんなことより今は、驚く方が正しいリアクションだろう。
本来ならワンルームマンションの部屋から出れば見慣れた通路があって、右に行けば階段、左に行けば消火栓、正面は、落下防止の為だか知らないが、心臓辺りの高さまである塀があった。
そう、本来ならばそれらがあったのだ。
ところが今は、どうだろう。
階段があった場所には、扉があり、消火栓があった所にも扉があり、塀があった所には鍵子が立っていて、その後ろにまた扉がある。
いや、それよりも理解出来ないのは、自分がどこに立っているのかが分からないということだ。
真っ暗なのに自分と鍵子、そして扉だけがはっきりと見える。
逆に言うとそれ以外何も見えない。
勿論、床もだ。
(正しく機能しているのは、重力だけなんじゃないか?)
足踏みをしてみた。
何かに当たってはいるのだけど、床のソレとは違った感触だ。
裸足なのにも関わらず、一切の温度を感じることが出来ない。
「これ、受け取って」
鍵子が不満そうな顔で右手を俺に差し出す。
状況確認を先決して行っていた為、鍵子の存在を放置していたのがいけなかったのだろうか、やや怒っているように感じた。
「……なんだよ、それ」
鍵子の手は、拳を握っており、更には甲を上にしていたせいで、渡そうとしている物が見えず、素直に受け取ることが出来なかった。
「鍵よ」
只でさえ不機嫌な鍵子の表情がより険しくなる。
(鍵……そういえば、夢の中で鍵子が説明していたな)
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