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「……どうしたの?」
開いた扉を閉めもせず、帰りもしない俺に痺れを切らしたのか、鍵子がそう訊ねてきた。
「いや、ちょっと考え事しててな」
一旦鍵子に向き直る。
「何かしら」
振り返った俺に対し、特に咎めるでもなく、急かすでもなく、ただ低いトーンで一言だけ漏らす。
この声質だけでも鍵子がただの子供ではないということが判る。
先ほどから口調は変われど、このトーンだけは変わらなかった。
「もし帰ったら鍵子が全部の鍵を開けるのか?」
鍵子には、まるで人間味がないのだ。
「そう言ったつもりだったけれど、まさか、そんな簡単なことですら理解出来ないのかしら」
まあ、それ以前に、こんな変な空間にいる奴が人間な訳がないか。
「馬鹿なキャラで定着させようとするな。俺が聞きたいことは、」
「全部よ」
「……最後まで聞けよ」
「あなた、遠回しに聞く癖があるわね。普段からそうやって生きてきたのかしら」
鍵子は、まるで俺が何を言わんとしてるかが、判っているかのようなことを言う。
「ただ愚直に疑問に思ったことを聞いたって、相手が本当のことを言うとは、限らないだろ。そんな生き方してたらいつか痛い目見るだろうしな」
「ふうん、そう」
まるで興味がないのか、投げやりな返事をよこす。
「まあ、もう判ってるだろうから敢えて単刀直入に聞かせてもらおうか。お前が鍵を全部開けた場合、忘れていた筈の過去は、どんな形で俺の中に戻るんだ?」
4つの鍵のうちの1つは、俺が既に忘れている過去だと鍵子は言った。
その過去は、例え俺がここで自室に引き返しても忘れたままでいられるのだろうか。
「そうね、あなたの思っている通りよ」
「……俺は、まだどうなるかなんて予想出来てないぞ」
「だから思っている通りって言ったのよ」
「……は?」
「私に判る訳がないじゃない。私は、あなたじゃないのだから」
(……つまりどうなるかは、鍵子にも判らないって訳か)
「っていうかさ、鍵子も結構回りくどいよな」
「あなたに合わせてるのよ」
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