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そして、後ろのギターケースのネック部分を左手で引っ張り、キスー。ただ1つ言える事は、彼は天才の前に変態だ。
「・・・帰ったらそのギターケース、ファブって返せよ。♂野郎のキスは煮沸消毒ものだからな」
気分悪そうに眉をひそめる礼二に対して「♂じゃねぇし!」と笑う文夫だった。
楽器屋はギブソン系列店らしく、ギターの半数がギブソン系ギターだ。広々とした店内に楽器や備品等をそれぞれフロア展開ー。不景気の世の中において、それなりの財力が有る事を示している。
「先ずはチューナーだな。うーん・・・イヤートレーニングにA音の音叉も有りだが・・・」
ぶつくさと呟く礼二の横で文夫は楽器屋の商品に目を輝かせる。彼には用途の解らない商品ばかりだったが、未知との遭遇に胸が高鳴って仕方無い様子だ。
「まあ、普通にチューナー買うか。今時音叉使ってる奴もいねぇだろうし・・・」
そんな彼の横で礼二は眉根を寄せていたが、1000円クラスのチューナーを籠の中に突っ込んだ。確かに音叉を使ったイヤートレーニングは非常に有効であるが、慣れるまでに時間が掛かる場合が多い。文夫がギターの音にある程度慣れてから、音叉にするかしないかは考ようー。礼二はそう考えた。
ー実際、音叉を使う人はかなり減ってきている。
チューナーの様に便利な道具が出きたことは良い事だが、それによって人の耳は確実に退化している。音楽に限らず”便利になる”とはそういう物だ。
ーそれはさておき、チューナー選びを終えた2人はエフェクターコーナーへと向かう。
「バリバリのハードロックならディストーションをかませるが、渋いつったらなんだろうか・・・。ノイジーなファズ、90年代仕様のクランチ・・・、そんな所か?」
ロックとロックンロールの違いとでも言おうか、ディストーションでガッツリと歪ませた音は非常に攻撃的では有るものの渋さは薄い。無論、物や掛け具合にもよるが現代ロックを象徴するディストーションは渋く深みのあるロックンロールの音とは異なる。
ー少なくともそう思っている節のある礼二は、文夫がある程度音に理解があると仮定するならば、彼の求める音はディストーションでは無いだろうと感じていた。
(・・・となれば、じゃじゃ馬だが、アレがベストか)
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