good3そして、俺は恋をした

5/9
前へ
/64ページ
次へ
 そして、礼二が手に取ったのはファズのエフェクター。深めに掛ければ攻撃的、浅く掛ければ渋みを持ったロックンロールの乾いた音が出るはずだ。 「おう!!」と返事をする文夫を横目に彼は店員を呼ぶと了承を経てからギターを繋げた。  礼二が手に取ったエフェクターはBOSS Fz-5ー。1960、70年代のファズを忠実に再現した一品でオリジナルを越える歪み、重厚感溢れるサウンドは他の歪みに随時を許さない。  音抜けの良いストラト、そのFender Japanヴィンテージと噛み合わせれば、正にロックンロールな音が出るのでは無かろうか?  そして、アンプはMarshallのJcm-800ー。ボリュームを上げる事で歪みが増す、ロックに最適なギターアンプ。この組合せで負ける要素が見当たらない。 「ほら、文夫弾いてみろよ?こんな素晴らしい組合せはそうそう拝める物じゃないぜ?」  彼はニヤリと笑い、文夫にギターを渡した。神がかったチョイスー、これの良さが解らないならロックすんなと言わんばかりである。そして、またしても震え始めた文夫。へんな持病を持っているのかもしれないーは、さておき、彼は習ったばかりのパワーコードのEを弾く。  ガツンとしたパワーのあるガリの効いたその音は、聴いた人間を惹き付ける。そう、それは非常に歪みきったサイケデリックな音ー。  かのジミ・ヘンドリックスを思わせる音だった。  ーは言い過ぎでも、60年代の王道ロックを思わせる響きだったといえる。 「・・・完・・・璧・・・だ・・・。エクスタシーが・・・、迸る・・・」  恍惚の表情を浮かべるベビーフェイス、文夫。彼の良さを全て打ち消す残念な表情だったが、礼二は大満足だった。 (・・・コイツは案外化けるかも知れねぇな・・・)  良い音を聴ける耳持ってる。  思わず笑みを溢す礼二だった。  その後、値段を確かめずに全てを買おうとする文夫を止めて、シールド選びに向かう。 「お前、本当に馬鹿だな。20万一括で買えるわけねぇだろ・・・」  呆れ顔の礼二には流石の文夫も申し訳なさそうに頭を垂れた。 「面目ねぇ・・・、精々5万くらいかと・・・」  アンプヘッドにキャビネットスピーカー、アンプ上下の値段がそんなに安い訳が無い。こういう所は本当に素人だな・・・と礼二は苦笑するしかなかった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加