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「…あ、あんたみたいなの興味無いし。絶対、変態」
あまりに真剣は表情で言う文夫に対して、少女はどこか余裕がなさそうだった。もしくは頬が赤くなっている様子を見ると何かしら思う所があったのかもしれない。
「止めとけ文夫。こんだけ真剣にぶつかって変態呼ばわりする様な女だ。絶対ろくな思いしねぇぞ?」
毒のある言い方だが、それは彼なりの優しさだった。今の様子を見るにアプローチの仕様によっては、どうにかなるかもしれない。しかし、礼二は少女に対して余り良い印象を感じなかった。どこか影を背負った様な雰囲気ー、文夫には合わないと思ったのだ。
しかし、文夫は首を縦には振らなかった。
「忠告サンキューな。けど、このチャンス何となく逃したくねぇんだ。結構重要な気がすんだよ。何となく…」
苦笑いを浮かべていた文夫は少女に対して真剣な表情を向ける。そして、大きく息を吸い込んでこう言った。
「という訳でもう一度聞かせて頂きます。貴女の御名前なんですか!!」
「ひゃっほーい♪今日は最高の気分だぜ!サンキュー礼二!アハハハハー」
都会の夜道を歩く二人ー。新たな機材を振り回し、上機嫌にスキップする文夫とあきれ顔で溜め息を吐く礼二。
「お前はとんだ馬鹿野郎だよ。大概ヒモられ鴨られろ、ボケ」
ラナー。
彼女はそう名乗った。明かに偽名かバンドで使ってるであろう名前だったが、文夫は大いに喜んだ。更には連絡先どころか、今度ライブするから見に来ればいいとチケットを買わされる始末ー。
礼二が呆れるのも無理はなかった。
「まあ良いじゃん?音楽の勉強だと思えばライブ観に行くのも無駄じゃないし、ラナちゃんとお近づきになれるなんて素晴らしいぜよ!完璧ラッキーじゃん!」
スキップしながら一回転、その表情は喜びに満ちていた。
そんな彼に礼二は苦笑ー。流石に怒る気になれず、溜息と共に頭を掻いた。
「・・・精々頑張るんだな。後悔はすんなよ」
「おうよ!!任せんしゃい!!」
ガッテンと腕を合わせる彼に再度苦笑する礼二。その頭上には都会では見えずらい一番星がキラリと輝いていた。
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