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それから1ヶ月が経った。
文夫は人が変わった様に酒を飲まなくなり、仕事が終われば早々と家に帰るようになった。どうも規則正しい生活を送っているようで、体調の改善と共に働きぶりは良くなる一方ー、上司も喜ぶばかりである。
一部の同僚は付き合いが悪くなったと悲しんだが、どちらかというと良い評価が多い。特に異性の評価は急上昇中だ。
素晴らしい事に"ゴミ"から"人間"にランクアップである。
「おおー、早くジョージに会いたいぜ・・・」
昼休み。トイレで1人、楽しそうに用を足している文夫の隣ー、用を足し始めた長身の男が彼に話し掛けた。
「おう、文夫。最近楽しそうじゃん?女でも出来たのか?」
啣えタバコが渋いイケメンの男、赤澤礼二(あかざわ れいじ)。彼の同僚であり飲み仲間的友人である。
「いや、女じゃねぇよ。ジョージだ。渋くて良いヤツなんだぜ・・・」
恍惚とした表情で彼がそう言うと礼二は顔を歪めて、彼から距離を取りー。
「お前、そんなディープな趣味があったんだな・・・。ケツが痒くなってきたぜ」
汚物を見るような視線を文夫に送っていると彼は大笑いしてー。
「ちげえよ!ジョージは俺の相棒ギターだよ!渋い音を出す、ロカビリー、スーパーギターだっつうの馬鹿!ハハハー」
「わりかしマジで引いてたぜ・・・」と礼二は苦笑しながらー。
「馬鹿はお前だっつうの・・・、てかお前ギターとか弾けたのかよ?メーカーはどこの?」
そんな礼二に対して文夫はしたり顔でー。
「F・E・N・D・E・Rだ!アメリカンだろ!ロックの為に生まれた感じだろ!」
「・・・それはフェンダーだ馬鹿。確かにロックの為に生まれたギターだろうが、お前には一万年はええよ」
煙草を携帯灰皿で潰し、新しい煙草を取り出した彼はそれを啣えながらー。
「んで、いくらの買ったんだ?俺、昔バンドやってたから、少し気になるな」
文夫はチャックを締めると水洗ボタンを押してー。
「拾ったんだよ、粗大ゴミ置き場から。見た瞬間稲妻が走ってな。もう俺にはこれしかねぇって思ったぜ。きっと神がくれたんだ。俺には解る300万の価値はあるはずだ」
(きっとこいつは馬鹿な上に想像以上のド素人なんだろうだなぁ・・・)
そんな事を考えながら礼二は眉間を押さえる。
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