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ペグを回していた手を止めた彼はCのコードを押さえて弦を弾いた。じゃらん、と鳴ったギターの音色は紛れもなくCの音ー。ドミソの和音からなるドの音であった。
「しっかし、良いギターだな・・・。オープンコードのCですら、ちゃんとロックの音がしやがる・・・。弦が錆びてなけりゃあ、最高だろうな・・・ってどうした?文夫?」
ふと礼二が顔をあげると何故か文夫は震えていた。驚愕の表情を張り付け、礼二を指差しながらー。
「まごうことなきCの音・・・、礼二、お前、もしやミュージシャン?」
プルプルと全身を震わせ腰を抜かしている様子を見るに本気で言っているようだ。Cの音を鳴らしただけでこれとは本当に大袈裟な男である。
「・・・ちげぇよ。ただ、チューニングしただけだよ。簡単に説明するとな、この1弦から6弦には決まった音があるんだよ。上からE A D G B E 。基本的にはこれにしとかなきゃちゃんとした音がでねぇんだよ」
そして、彼は文夫にギターを渡してニヤリー。
「弾いてみろよ、文夫?ジョージが最高の音を聴かせてくれるぜ?」
恐る恐るといった様子でギターを受け取り、Cコードを押さえて5弦から鳴らす。震える手でピックが深く入り、ガッとしたピッキングノイズが入ったが、その音は紛れもなくー。
「・・・Cだ。ジョージ、何て素晴らしい音なんだ!ジョージ、ジョオージ!!」
そして、遂にまた、ギターに抱き着いて泣き出した文夫を見て彼は苦笑しー。
「ちゃんとチューニングすれば、このくらいの音は出るぜ?まっ、パワーコードならもっとロックな音が出るんだろうが・・・」
彼は立ち上がるとたばこをくわえー。
「今度の給料日後の休みに色々買いに行くぞ、文夫。世界に羽ばたくには道具が足りなすぎるぜ?」
冗談混じりに呟いて、彼はたばこに火を着けた。ユラユラと靡く白煙の中に見えるニヒルな笑顔。固めのワックスでお洒落に象られた黒の短髪がよく似合うロックな男ー、それがベーシスト礼二だ。
涙ながらに頷く文夫ー。彼の音楽人生が大きく動き出したー、そんな1日だった。
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