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 洗面台の横に携帯電話を発見した時も、まだ鳴り続けていた。  しつこい相手だと思いディスプレイを確認すると、母親からだった。 「……もしもし」  なるべく穏やかな声で、応対する。 「あ、ユウコ? 今忙しいの?」  電話に出るのが遅かったから、心配してくれているらしい。 「うんちょっと。今日会社で送別会やってくれるらしいから、準備してた」  寝ていたと言えば、体調でも悪いのかとまた不要な心配をかけると思い、私はつい嘘をついた。  本当は、送別会は先週末にすでに終わっていた。仲良くしてくれていた数人で開いた、ささやかなものだったが。 「そうだったの。……ユウコ、こないだも言ったけれど、本当にいつでも帰ってきて良いからね。遠慮せずに、ご飯だけ食べに帰るのでも構わないから、本当にいつでも帰って来なさい」  優しい、母の声。  しかし今の私は、嬉しさよりも、こんなに親に心配をかけてしまう自分がとても情けないという気持ちの方が大きかった。 「……ありがとう。また近いうちに顔を出すから、心配しないで」  精一杯の平静を保った声でそう言うと、電話を切った。
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