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「わたしはね、夕焼けの出ている間しかいられないの」
「……え?」
「あぁごめん。ちょっと誤解を招く言い方しちゃったね。大丈夫、わたしはファンタジーの妖精さんだったりしないから」
ふぅと、彼女は一息つく。その小さな仕草すら絵画のように美しく映えて見えたが、その少し寂しげな表情は、ボクを十分に緊張させた。
「わたしね、ちょっと奇妙な病気なの。太陽とか、月の光を浴びられない、変な病気」
「え、でも今キミは」
「ただ、この夕焼けの間だけ、なぜか大丈夫なの。だからわたしは、毎日この時間だけお出かけする」
ホームで電車が止まり、そのほとんど乗客がいない車両の扉を開く。
それを見た彼女は、すくりと立ち上がった。ボクは眺めることしかできない。
「……さっ、早く乗らないと、電車行っちゃうよっ。わたしもそろそろ帰らないとだし」
その時彼女が見せた笑顔は、あまりにも悲しげに見えてしまって。
また会えるかな? なんて呟く彼女がすごく儚く見えて。
ボクはおもむろに立ち上がって、彼女を抱きしめた。ほとんど無意識だった。
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