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「ちょ、ちょっとセイヤ?」
「……いつか」
「え?」
「ボクが連れていってあげる。太陽のもとへでも、夜空のもとへでも。だから」
抱きしめていた彼女の肩に手を置き、まっすぐ見据えた。鼻先すら触れてしまいそうなほど近かったが、ここまで来てしまえばあとはもう勢いだ。ついさっき誓った思いを、彼女にぶつける。
「ボクがキミを救えるようになるまで、待っていてくれないか。それまでキミには夕焼けだけで我慢してもらわないとなんだけど」
「……そっか」
ボクの胸に手をおいて距離をとるように彼女は押す。だけどそのことに、悪い気は感じない。なぜなら。
「でも早くしてね。わたしが夕日に飽きちゃう前に、ね?」
「うん、約束する」
彼女がその日一番の綺麗な笑顔を見せてくれたからだ。
あれからもう10年が経つ。ボクは恋人と手を繋いでデートしていた。1日中遊びまわって、今はもう夕方だった。夕焼けはあの日のように美しい。
「どうだった、久々のデートは?」
「スゴく楽しかった! お医者さんなんだから、忙しいのは仕方ないよ」
「そう、なら良かった」
しばしの沈黙。ボクらは駅のホームのベンチに座り、夕日を眺めていた。言葉がなくとも通じあっている。そんな感じがした。
「あのさ」
「ん? どうかしたのセイヤ?」
「今から星でも観に行こうか、緋色」
End
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