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『クラウン・エージェンシー』反対側への車線変更をしたロータス。
ドライバーの富三郎は、この時間にしては周囲の車列が非常に少ないことに安心し、大きく弧を描く様にステアリングを切った。
両サイドミラーにも後続の車の姿は映っていなかった。
しかし、後続車は1台だけ存在していた。
赤のランボルギーニ・カウンタック。
倉本富三郎がその存在に気付かなかったのは、決して彼が注意力散漫だった訳でも、彼の目が悪かったからでもない。
後続車・ランボルギーニ・カウンタックのサイズは、スケール35分の1。
そう、オモチャのラジコン・カーだったのだから。
平たい白のボディの下まで潜り込んだ『それ』は、モーター音を完全に掻き消し、その姿すら見えない『ステルス機』さながらの物体となっていた。
「ジャッカルさんよお、あんた音楽とかに詳しいんだろ?」
「ジャックだってば!」
「俺の娘が今度結婚するんだが、何かウェデング・ソングの決定版って感じの歌とか知らねえかな?」
「そうね、ボクのお気に入りは『ウェディング・ベル』かしら?」
「ほう! そのものズバリな題名だなあ。感動するのかい? その歌」
「モチよ! 警部さん。
1980年代前半の大ヒット曲で、歌ってるのは女の子3人組の『シュガー』ってグループ」
「血糖値上がりそうな名前の歌い手だなあ!!」
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