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今からずっと昔、人々はひとつの言語を話し、ひとつの考えを共有していた。
争い事はなく、世界に幸せが満ちあふれていた。
しかし、人間には生まれながらに"欲望"という感情があった。
欲望は人々に平凡な幸せの有り難みを忘れさせていった。
そして、人々が平凡な幸せに不満を持ち始めたころ、誰かが世界に向けて言った。
『天まで届く塔を建てよう。そして我々を見下ろしている神を倒し、我々だけで世界を創ろう』
その言葉に人々の中で眠っていた欲望は完全に目覚めた。
『支配するのは神ではない。
我こそが神となり世界を支配する』
人々は躍起になった。
もっと高く。もっと高く。
欲望が彼らを動かした。
欲望に心を奪われた人々は、毎日毎日、塔を建て続けた。
......しかし、何百年という長い月日をかけて造られたその塔が、天に届くことは永遠になかった。
神に逆らった人々は神の怒りにふれてしまったのだ。
神からの罰は“人との繋がり”を消し去ること。
人々は話すことでお互いを認め合い、通じ合うもの。
神は人々から、この話すということを取り上げた。
しかし、人々が失ったのは“声”ではなく、“同一言語”だった。
言葉が通じなくなった人々は混乱し、世界各地へと散って行った。
天に向かってにのびる大きな塔は、誰かによって壊され、今では影も形も残っていないという。
その事実は神への反逆として人々の記憶から消され、ただの架空の物語として受け継がれていった。
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