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私ってば・・・変よ。
あの男の口車に乗せられて赤面するなんて。
あれは道具、人ではない。そこら辺の人間よりも耐久力があって私の命令をなんでも聞く便利な人形。
そう。それ以上、それ以下でも無いわ。
必要なら使い不要なら放っておけばいい・・・・・・それだけのはずなのに。
心のどこかでなにかがざわめいてる。あの男の全てにイライラして感情的になってる。
感情を持てば相手に揺さぶられる、弱みを見せればつけ込まれる、求めれば欲に囚われる。
そう、無慈悲に冷徹に心を凍らせるの。
慈悲も慈愛も優しさも全て不要よ。
そう自分に言い聞かせるが雄仁の前になると凜華はいつもの冷静さを失ってしまう。
「・・・・・・最悪ね」
ポツリと呟き目を閉じた。
同時刻、厨房。
「もし・・・主様が恋をしたらですか?」
「うん。だって凜華様も年頃でしょ?やっぱり好きな男の子とか出来るんじゃないかなって」
「はっ、これだから年寄りは。口を開けば世迷い言ばかり」
吐き捨てるように言った八枝はまな板の上の魚の首を切り落とした。
「怖っ!?なんか演出も加わって怖さ増してるよ」
「でも、そうですね・・・もし、万が一、仮に、例えば主様が誰かと付き合おうものなら私は・・・毒殺します」
鍋に見たことのない英語のラベルの黒い液体を入れ笑った。
「もしかして、それ毒とかじゃないよね?」
「これはオイスターソースです。もう老化が始まってるんですか?」
「始まってない!変な言いがかりつけてると怒るよ!」
「その前に仕事をしてください」
「休憩中でーす」
「そうでしたね。寧々様の様な年寄りは休憩の回数が増えますよね。配慮が足りませんでした」
「あーなんか働きたい気分!これは若さのせいなのね。若いって罪」
うっとりと言いながら厨房を後にした。
「はぁ、世話が焼ける」
呟き、まな板の上の魚を卸し始めた。
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