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とんでもねぇー事をこの女はさらりと言いやがった。
キルフィン・ゼラ・グラーディアと名乗った女は鍵型ナイフを器用に一回転させると、まるで殺人鬼のような面持ちで近づいて来る。
俺は慌てて起き上がると一目散に逃げ出した。
「逃げるとは何事だ! 素直に刺されよ!」
無理難題な命令を下しながら美しい切り裂き魔が動き出す。
俺は地元の利を活かして、路地裏に逃げ込んだ。
この騒ぎを遠めに見ていた通行人達が、騒いでいる声が聞こえてくる。
誰か通報してくれる事を祈るばかりだ。
と、言うか通報してくれ~コンチクショ!
いや、全速疾走しながらも携帯電話を使うべきか?
他力本願はみっともない。
警察を呼ぶと言うのは、平穏を望む俺的にはかけづらいイメージがあるが、背に腹は返られない。
俺はズボンに入れておいた携帯電話を急いで取り出すと、押し馴れない110と言う番号をプッシュした。
「よし」
着信音の次に、オペレーターらしき女性の声が聞こえる。
『はい警察です。事件ですか、事故ですか?』
俺が嬉々として通話越しの質問に答えようとした瞬間だった。
轟音が耳を貫いたのは。
何が起こったのかをいまいち理解出来なかった。
気づけば地面に転がっていた。
「なっ……んだ?」
身体中の痛みに俺は顔を歪めた。
とにかく背中と左肘の痛みが酷い。
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