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あの日、闇のなかであたしは荒れ狂った白い虎を見つけた。
おびただしいほどの血が広がるその中心で、荒々しいオーラをまといたたずむ孤独な虎を‥‥‥‥‥。
虎にゆっくりと近づいて行く。
“お前目が死んでる”
あたしがそう言うと、虎は顔を上げた。
虎は掴んでいた相手の胸ぐらを乱暴に離して、黙ったままじっとあたしを見つめる。
あたしは視線を血まみれになって倒れている男達に向けた。
”ただの反抗期か?それにしちゃあ派手だな”
あまりの悲惨な姿に、思わずフッと笑う。
”‥‥‥‥‥なんだてめぇ”
虎はまるで獲物を見るかのように冷たく鋭い眼をあたしに向け低い声を発した。
”意味のないケンカなんかすんじゃねぇ。そんな事やったって心なんて満たされねぇだろ”
その言葉を聞いて虎は眉間に皺をよせ、あたしに近寄ってきた。
ビリビリと虎から伝わる威圧感。
でもあたしは全く気にせず、口角をあげたまま言葉を続けた。
”お前カッコわりぃよ。狂った猛獣みてぇ”
......その瞬間、虎はあたしの胸ぐらを掴んで拳を握り、あたしの頬に降り下ろした。
‥.‥が、あたしはそれをよけて、もう片方の手でみぞおちを思いっきり殴る。
“‥.‥‥‥ッ”
虎はその場に崩れた。
崩れて顔を歪ませる虎の前に、ゆっくりしゃがみこむ。
”‥‥‥‥探せ。自分の守りたいモンを。それを守り抜ける男になれ。そういう奴が本当に強い奴だ。”
そういってあたしは、虎の白銀の頭に手を乗せて微笑んだ。
あの頃のあたしは守る物があった。
そのためなら、どんなにこの手を赤く染めて藻構わなかった。
怖いものなんてなかった。
それほど大事だった。
やっと見つけた、あたしの唯一の居場所。
だから昔のあたしみたいな想いをしてる奴を見るとほっとけなかったんだ。
あの頃のあたしは幸せだったよ。
何もない今、あたしはからっぽに戻った。
誓った、あたしには”大切なものを守るために”
にしかケンカしないって。
だからもうケンカなんかしない。
あの場所には戻れないから。
守るものはもうないから。
ねえ、もう逢えないけど、今でもあたしのこと仲間だといってくれますか?
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