599人が本棚に入れています
本棚に追加
「……さてと」
生きているただ一人の浪士を気絶させ縛り上げ、沖田は一息吐いて立ち上がった。
「終りましたね」
「そうだね」
そう言って藤堂も立ち上がる。
「では、甘味屋に行きましょうか」
「え……あれ、本気だったの?」
藤堂は、ここに来る道中の会話を思い出して顔を引きつらせた。
「本気ですよう!ひと働きしたんですから、ちょっとぐらいいいでしょう?」
「いや、ダメだって!まだ仕事中だから!土方さんに怒られちゃうよ!」
「ぶー!」
頬を膨らまして不満を露わにする同僚に、藤堂は溜息を吐いた。
……ちなみに、沖田の方が年上である。
「ほら、帰るよ!」
「甘味ぃ」
「こんな格好じゃどのみちダメでしょ?」
「格好?」
藤堂の言葉に、沖田は自分の格好を見てみた。
「あー」
彼らの象徴とも言えるだんだら羽織。
その浅葱色は所々血がつき、赤黒くなっていた。
もちろん全て返り血であり怪我をしているわけではないのだが、これで甘味屋なんぞ行ったら忽(タチマ)ち大騒ぎになってしまう。
「ほら、おとなしく帰るよ」
藤堂はそう言って、捕縛した浪士を引き摺り屋敷の外へ出る。
沖田も、藤堂の言葉に口を尖らせたが、渋々藤堂に続き外へと出て行った。
外に出ると、血塗れの2人を見て街行く人々が悲鳴をあげる。
そんなこともお構いなしに、彼らはスタスタと歩き出した。
「……甘味屋、後で絶対に行きましょうね」
「はいはい、非番になったらね」
「絶対ですよ!絶対!」
「わかったってば」
そんな会話をしながら彼らは歩く。
そんな彼らの頭上では、澄んだ浅葱色の空が広がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!