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京・壬生
「ばっかたるぇぇええええごるぁぁぁああああああ!!!」
開口一番に繰り出されたのは、そんな怒号だった。
ここは、京にある新選組の屯所。
新選組隊士らの住処である八木邸の一室では、藤堂と沖田が並んで座り、仲よく怒号を浴びせられていた。
二人の前に座るは黒髪の艶やかな男。
容姿端麗とはこの男のことを言うのだろう、役者とも見間違うほどの整った顔立ち、肌理(キメ)の細かい白い肌、深い色合いの着流しを身にまとうその男は、今、眉間に皺を寄せ、眉毛を釣り上げかんかんに怒っていた。
しかしその表情も、さぞや絵になることだろう。
その隣には、月代に髷姿の、柔らかい物腰をした優男。
「何でてめぇらは勝手に突っ走るんだこの野郎!二人だけで敵の巣へ突っ込む奴がいるか!?馬鹿かてめぇら!?」
渋い声が、室中……いや、屋敷中に響く。
「『突っ込む奴』って、現に僕らがいるでしょう、土方さん」
「黙れ総司!!そういうことを言ってんじゃねぇんだよこの阿呆!!」
沖田の茶化すような言葉に、容姿端麗な美丈夫ーー土方歳三(ヒジカタトシゾウ)は、さらに大音量で怒鳴りつけた。
「無事だから良かったものの、何かあったらどうするつもりだったんだてめぇら!なんで隊士を連れて行かない!?俺はちゃんと『連れて行け』と言ったはずだが!?」
「だって……」
藤堂は沖田と顔を見合わせる。
藤堂の言葉を引き継いで、沖田が口を開いた。
「皆さんが要ると、邪魔なんですもん」
「馬鹿かてめぇらは!?」
土方の声が、より一層大きくなった気がした。
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