新しく選ばれた者たち

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「ここですか?」 沖田が藤堂に尋ねる。 「らしいよ。……山崎さんによれば」 「なら当たりですね」 そう言って、沖田は何の躊躇(タメラ)いもなくその屋敷の戸を開けた。 ガラリ あっさりと開いた戸の向こうでは、ちょうど一人の男が通りかかったところであった。 身形(ミナリ)からして浪士であるらしいその男は、急に戸が開いたこちらを凝視している。 その瞳は、飛び出しそうなほど見開いていた。 「あは」 沖田がその男ににっこりと笑いかけると、男はハッとして駆けた。 「壬生狼だ!!壬生狼が来ガアッ!!!!」 咄嗟に屋敷の奥に向かって叫んだその男は、最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった。 なぜならその男の胸には、一輪の花が咲き誇っていたからだ。 刀という名の、真っ赤な花弁の花、が。 一瞬の後(ノチ)、さっきまで駆けていた男がどさりと倒れた。 「さすが“魁(サキガケ)先生”、ですね」 沖田がクスリと笑って口を開く。 沖田も藤堂も、先ほどから一歩も動いてはいなかった。 刀もきちんとその腰に収められている。 今も男の胸に深々と突き刺さっているその刀は、男の腰に有った刀であった。 それがいつの間にか、持ち主の胸に突き刺さっている。 その時、先ほどの男の叫び声に導かれたのだろう、ズササッと屋敷の奥のほうから浪士共が駆け寄ってきた。 一階も二階も、浪士たちが現れ犇(ヒシメ)いている。 その数、ざっと合わせて十人。 「一階は任せました」 藤堂の耳元で、沖田の声がした。 その一瞬の後ーー 「グガッ!!!」 鈍い音がしたかと思うと、沖田が正面の階段の上に立っていた。 その足元には、たった今沖田に斬られたのだろう、血飛沫(チシブキ)を上げ、一人の浪士が崩れ落ちている。
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