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直後に感じた、胸の内側からジワリと熱くなる感覚。
流れに逆らわず後ろに倒れた少女は、ゆっくりと自分の胸のあたりを見た。
「あ……」
それが、彼女の見た最後の光景になった。
自分の胸に刺さった一振りの刀と吹き出る血、その刀越しに、手を前に突き出した藤堂の姿が、見えた。
藤堂は、絶命した少女を見てポツリを呟いた。
「女子供も関係ないんだよ。みんな、生かしちゃおけない敵だからさ」
その脅威はやがて、彼の大切なものの命を脅かすから……。
「平助」
こちらへ歩いてくる気配と声がした。
藤堂はそちらを振り返る。
やがて現れた沖田は、藤堂を見つけるとにっこり笑った。
「あ、ここに居ましたか、平助」
「総司」
「終ったみたいですね」
「うん。みんな殺し……あ」
何かに気づいたように、藤堂の言葉が止まった。
沖田が不思議そうに顔を覗き込む。
「平助、どうしたん」
「みんな、殺(ヤ)っちゃったよ」
「はい?」
「どうしよう、誰か一人だけでも必ず連れて来いって土方さんが!」
「あ」
そこで、沖田も藤堂が青くなっている原因に気が付いた。
全滅させてしまったら、仲間の居場所を吐かせられないではないか。
所詮ここは雑魚の根城なのだ。
こいつらを使って、大物を釣り上げようとしていたのに。
「どうしよう、どうしよう」
「落ち着いてください平助。まあ、大丈夫ですって」
「もう!総司は落ち着きすぎ!土方さんに怒られちゃうじゃん!」
死体の中で狼狽える藤堂とそれを諌める沖田。
それは、異様な光景だった。
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