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その時だった。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁああああああああ!!」
突然躍り出る影。
藤堂の背後に出たそれは、頭上に掲げた刀をそのまま藤堂目掛けて振り下ろした。
最後の悪足掻きだった。
肩を切られつつも、息の根は止まっていなかった。
激しい痛みの中身体を起こすと、何やら狼狽えている仇目掛けて渾身の一撃を振り下ろした。
相手は振り向かない。
殺った。一矢を報いた。仲間の敵を討った。
これで死ねる。
そう、思った。
ーーが。
ぴたり。
「……え?」
何が起きたのか、わからなかった。
……か、体……が……。
動かなかった。
己の体が、何かに固定されているようにびくともしない。
自分の意思通りにならない。
浪士は、刀を振り下した状態のまま固まっていた。
あと一歩で斬れるという擦れ擦れで動きが止まっている。
な、なぜ?
意味が分からないが、これではどうしようもない。
振り下ろそうとも、ピクリともしなかった。
「……さすが、“念力”ですね」
にこにこ笑っている長髪が口を開いた。
「ただ止めただけ」
後ろを向いていた短髪が応える。
「それでもすごいですよ、平助」
長髪の方が、スタスタと浪士のもとへやってきた。
その目が、固まったままの浪士に向く。
そして、彼は、より一層ニタァと笑った。
それは子供が欲しい玩具を手に入れた時のように。
本当に嬉しそうに。
しかし、その笑顔は邪気に満ち溢れていて。
「あはっ。生きてるひと、みーつけたっ」
浪士の顔が、血を抜いたように真っ青になった。
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