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「今日、雪が降るんだってな」
天気予報を見たのか、制服の上に着ていた黒のダウンジャケットに片手を突っ込み、曇り空を見上げて怜二は呟いた。
「ああ、降るといいな」
「勘弁してくれよ……ただでさえ寒いんだからさ」
ため息混じりに言った怜二の口元から真っ白に染まった息が風に流れていく。
毎日、それも物心つくかつかないかくらいの時から一緒にいれば会話のネタも尽きてくるもので、なんとなくそこから会話はなくなってしまった。
それでも気まずく感じたりはせず、黙々と学校に向かって歩いていく。
川沿いを抜けて学校まで一直線に続く坂道へと差しかかる頃になると、同じ制服を着た学生たちの姿が増えてくる。
帰りはともかく毎朝この坂道を自転車で登っていくことを考えるとそれだけでげんなりした気分になるので、どちらがいいのかはわからないが日向たちは徒歩で通学するようにしていた。
押して行けばいいだけだというのはともかくとして。
息を切らせて横を通り過ぎていく自転車を見送りながらそんなどうでもいいことを考えていると、日向は不意にさっきの伝言のことを思い出した。
「あ、そういえば。怜二、優姫って覚えてるか?」
「優姫? そりゃもちろん覚えてるけど」
「あいつから電話がかかってきたんだよ」
「へえ。で、なんて言ってたんだ?」
「その時は気づかなかったけど、代わりに伝言が残っててさ」
そう言いながら、日向は携帯電話を取り出して怜二に差し出した。
興味津々といった様子で怜二は再生された伝言を聞きはじめる。
しかし、こっそり秘密を盗み聞きしているように楽しげな笑みを浮かべていた怜二の表情は十秒もすると途端にわかりやすくがっかりしたものへと変わった。
内容が内容だけに当然かもしれないが。
「重要なところがなにも伝えられてないじゃん」
すっかり興味をなくしてしまったのか怜二はつまらなさそうにこちらに携帯電話を返すと、前を歩く女子生徒の背中に目を向けた。
そうして遠い目をして空を見上げる。
「あいつがいなくなってもう少しで二年か」
しんみりした声で呟いた。
「変な言い方するなよ。転校しただけだろ……」
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