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優姫という少女もまた二人の友人である。
彼らには生まれた時から両親がいなかった。
どういった経緯でそうなったのかは教えられていないが、ともかく彼らは幼い頃から同じ孤児院で暮らしていた仲間だった。
しかし、中学卒業と同時に優姫は県外のある夫婦のもとへと引き取られてしまい、それ以来連絡は取ってなかった。
知らなかったのだ。お互いに。
それ故に、突然の電話は日向にある疑問を抱かせていた。
この携帯電話は優姫がいなくなってから使いはじめたものだった。
「あいつ……どうして俺の連絡先知ってるんだろ」
「誰かから訊く以外になにがあるんだよ」
「まぁ、そうだけど」
妥当な考えに頷きつつ、日向は小さくため息をついて間近に迫った学校を見やった。
伝言が途切れる前の優姫の口調はどことなく深刻そうな雰囲気で、けれどもそう思う根拠があるわけでもなく怜二には「どう考えても考え過ぎだろ」とか言われるのがオチだろうなと言葉を飲み込んだ。
自分でもそうだとほんの少しは思っている。
「優姫のことも気になるけどさ、それよりも俺には今日の英語の小テストの方が大事だな」
あからさまに嫌そうな顔をして怜二が言い、釣られて日向も渋面を浮かべた。
英語を担当する先生はやたらと厳しいことで嫌われている。
そこから教室に向かうまでの会話はテストに向けての単語クイズに変わり、優姫の話題はそれとなく終了した。
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