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孤児院で生活していた優姫がいなくなったのは中学を卒業して間もなくのことだったのだが、日向たちにその事実が知らされたのはなにもかも済んだ後だった。
優姫ちゃんは県外の裕福な家庭に仲間入りすることになったの。
日向たちの面倒を見てくれていた先生(母さんと呼ばないと返事しなかったが恥ずかしいので先生と呼んでいた)はある日突然そんな話をした。
なんでなにも教えてくれなかったのかと怒りを感じた反面、その一方では家族に対して一種の憧れのようなものを持っていたので自分たちの兄弟にそれができたことは純粋に嬉しくもあった。
もちろん血の繋がりはないが。
ところが、しばらくして先生は突然いなくなってしまい、孤児院は閉鎖される次第となった。
理由はわからず先生がいまなにをしているのかさえ誰も知らない。
またしてもなにも教えてくれなかったわけだが、当時の日向たちの間では田舎に帰ったのだとか外国へ行ったのだとか様々な噂が飛び交っていた。
そうして日向たちは身寄りがなくなってしまったわけだが、新しい家族ができたのは優姫に限った話ではなかった。
当時、孤児院で生活をしていたのは優姫を除いた五人だったが、先生がいなくなってから間を置かずして漏れなく全員に引き取り手が見つかったのだ。
その頃の記憶は曖昧で手筈を整えてくれたのが先生なのかとか、いつ引き取られることになったのかなどははっきりと覚えていないが、とにかくそうして日向たちにも家族ができた。
彼らにとって幸運だったのは家族ができたことよりも、優姫以外に離ればなれになる者が一人もいなかったことだ。
いまでは全員が同じ高校に通っており、怜二のようにクラスが同じだったり、たまに廊下ですれ違うこともあるし――
「おにーちゃんっ」
律義に毎朝お弁当を届けにきてくれたりする。
教室で怜二と雑談混じりにテスト勉強をしていると、教室の入口から背の低い少女が無邪気に笑いながら手を振っていた。
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