舞い落ちた雪

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「おっす、楓」 気がついた怜二が片手を挙げると相手もそれに倣って手を挙げ、トコトコとこちらへやってきた。 毎日のことなのでクラスメイトたちは気にも留めず、むしろどこか微笑ましいものを見るような目でその少女――楓に挨拶をしている。 その度に右へ左へと首を振って挨拶を返し、内側にカールした髪の毛が肩の上でぴょこぴょこと跳ねた。 「おはようお兄ちゃん」 「ああ、おはよう。わざわざありがとな」 「ううん、大丈夫だよ」 そう言うと楓は可愛らしい包みに入った弁当を二つこちらに差し出した。 楓は日向たちより学年が一つ下で、孤児院で一緒に育った彼らの妹のような存在だった。 怜二は弁当を受け取るとさっそく包みを開けようとしている。 日向と違って朝食を抜いているのだ。 楓はそんな怜二の手をぺしっと叩き、 「だめだよ怜二くん。お昼まで食べちゃだめ。お弁当はランチなんだからっ」 「なんだそのよくわからない解説は……」 「もーお昼まで我慢して。早弁なんて行儀が悪いよー」 そう言って口を尖らせる楓に渋々弁当を片づける怜二。 一品だけつまみ食いしようとするのは毎度のことで、止められるのもまぁだいたい毎度のことだ。 「ったく……楓、ケチな女の子はモテないぞ」 「行儀が悪い人だってモテないよー?」 そんなやり取りをしていると予鈴が鳴り、楓は時計を一瞥した。 「じゃあねお兄ちゃん。怜二くんもお昼まで食べないでね?」 「はいはい……」 やれやれといった感じで相づちを打つ怜二の隣で返事の代わりに手を振ってやると楓もにこやかに振り返し、身を翻して駆けていった。 「なあ日向。どうして楓は俺だけ名前呼ばわりなんだろうな」 弁当をしまいながらしみじみと怜二が呟き、日向は教室の戸口で振り返ってもう一度手を振る楓を見やりながら、 「楓に訊いてくれ」 そんな感じで、孤児院で一緒に暮らすことはなくなったが日向たちの生活にあまり変化はなかった。
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