発端

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「だから僕に言わせれば、ホームズのやり方は見苦しくって仕方がないね」 大鳥は煙草の煙を吐き出した。 「君の探偵談義は聞き飽きたよ。それより、せっかく土産を持って来てやったのに、君は茶も出さないのかい?」 大鳥は苦笑する。 「待ってろ、今煎れてやる。  それにしても、君が菓子折りを下げてくるなんて珍しいな。  さては、何か僕に頼み事があるんだな」 「ご名答だよ、名探偵。  実は、今日は私の恩師からの頼まれ事があって来たんだよ」 「また、僕を厄介事に巻き込むつもりだな。広瀬君」 大鳥は露骨に嫌な顔をする。 「そんな顔をするなよ。  名探偵にお似合いの事件だぜ。  これを見てくれ」 私は、着流しの懐から一枚の紙切れを出す。 大鳥は、それを受け取ると煙草を口から外して、それを真剣な目で見つめた。 それは、ある地方新聞の切れ端だった。 『~山村ニテ不審死アイツグ連続殺人カ~  宮崎県ノ山村、久美雁村(クミカリムラ)ニテ、マタモ他殺死体ガ見ツカル。  死体ハ頭部ガ欠損シテオリ、何者カニ切断サレタ疑ヒ有リ。  同村デ不審死体ガ発見サレルノハ、コレデ三人目。  県警ハ現在事実関係二ツイテハ捜査中デアルト……』 「なんだ猟奇殺人か」 「浮かない顔をするね。もしや怖じ気づいたのかい」 「まさか。それよりこの事件が君とどう関わっているのか」 「私の帝大時代の恩師は君も知っているよね」 私は腰を浮かす。 「人文学部の松平光國先生か。趣味で考古学をなさっていた」 大鳥はすぐ答える。 「そうだ、その松平先生からの依頼なんだよ」 「君は、確か先生の研究室を飛び出したんじゃなかったかい」 大鳥は再び煙草をくわえる。 「まぁ、そんなところだが、今の仕事を紹介してくれたのも松平先生だから、未だに頭が上がらないんだ」 私は、雑誌社で物書きをやっているのだ。 「なるほど、それでその松平先生がどうしたんだ?」 「先生は発掘調査で今、その記事の久美雁村にいるんだ。どうやら事件に巻き込まれているらしい」 「やれやれ、君は毎度本当に面倒なことを持ち込んでくるね。広瀬君」 大鳥は頭をかく。 「随分、乗り気でないね」 「当然だろう。既に警察が動いているのなら、わさわざ僕が九州まで乗り出す必要はないだろ」
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