2人が本棚に入れています
本棚に追加
父は居合の達者だった。抜刀の瞬間を気付かせぬ迅速な抜き手は『電光の右』の名で恐れられていた。
「父上! 父上ぇぇ!」
西瓜のように脳天を割られ真っ赤な身を撒き散らし骸となった父の身に、『電光』と恐れられた右手は繋がっていなかった。
若侍は父の骸と対面したとき、その無惨な姿に泣き崩れた。
「なんと痛ましい姿で……」
顔もわからぬ頭部の状態が、ではない。
切り飛ばされて父から離れた右手、幼い頃から誇らしく思っていた父の右手が、地に落ち、カラスどもの餌にされていることが、若侍には無念でならなかった。
父は半ば刀を抜きかけた状態で右腕を切り飛ばされ、肘から先を失っていた。
(あの父が、居合で敗れた!)
仇との距離が、また一歩詰まった。
最初のコメントを投稿しよう!