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私は声の主に視線を走らせる。
ノンフレームの眼鏡が光って、蛍光灯が反射したせいで右側の目がほとんど見えなかった。
「真路」
私は海月の横に座る真路の名を呼んだ。
「一言で言うなら、人形にある特定の人物の魂を付加させてその人物の能力的特長を人形に与える術式だ。
俺はあまり詳しくない。おい、晦里。お前、詳しいだろ?」
黒縁の眼鏡をした若松晦里が片眉を上げて背をいすから離した。
「あーまあ、大体そんなところですよ。
ぶっちゃけた話、人形師なんて戦力にもなりませんから専門からははずしましたけどね」
晦里は白衣のポケットに手を突っ込んで立ち上がる。
「たとえば、ここに土偶でも何でもいいですよ。
とにかく物理的なものに魂の断片――私達は《魂の痕跡》と呼びますが、それを術式の中に入れることでうまくいけばその宿主に取り付くってことですよ。
宿主は生き物でもかまいませんし、その辺に転がっているごみでもいい。
特徴という特徴は真術を織り込んでつむいだ糸で特定の人物を操るってこと位ですかね。
まあ、物的証拠が残りますし、あんまり使わないですし、使いたくないですね。
ただ、人形師の技法において大きな欠点がある。
一つは、術者が近くにいなければ魂の定着を継続できない。
そして一番大きい欠点がね、拒絶反応が大きくてね。
そしたら一瞬でどかんですよ。五臓六腑も遺体もなにもすべて残らないでしょうね。
いわゆる、リバウンドです」
肩をすくめる彼は苦笑して、眼鏡をはずした。
「つまり――人形師ならば、私位の力を持っていないと、難しい」
にやりと晦里は微笑んだ。
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