1.5)4月24日 心が揺さぶられて仕方がないんだ

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 私は校舎に向かっていた。  息抜きする最適の場所――  校舎に踏み込むと、耐えない喧騒に少しばかり緊張した。  最早、性としかいいようがない。  近くに禍がいないか、気配をめぐらせる癖がついている。  とりあえず近くに居ない。  ちらほら気配はあるが襲ってくる気配はないから気をつけていれば大丈夫であろう。  私は階段で5階まで上がると一番奥まで行く、  扉を開けると高い位置にあるためか西日が直接入り込んでくる。  黒い体躯のピアノがオレンジ色の光を返してきた。  音楽室だ。  すり鉢のような形をしている教室はここだけで、その一番低いところにピアノはたたずんでいた。  私は学校独特のカーペットのしかれた階段をゆっくりと降りて一段高くなっているピアノのステージに立った。  開けっ放しのピアノの鍵盤にそっと触れると、ぽーんと調律のあったピアノの音が響いた。  ピアノの音はそっと私ののどにぬくもりを与えるように響いた。  引き寄せたいすにこしかけて、高さをあわせ私はピアノに指を躍らせる。  指を沈めると響く旋律。ざらついた心が一気に澄んでいくのが手に取るようにわかる。  この曲を作ったのはいつだったか……思い出せない。でもずっと前。  この曲につけた詩もはっきりと覚えてる。あれは、桂が作ったものだった。  稽古以外の時間、私は音楽をすることに時間を費やしていた。  楽しくて楽しくて――自然と旋律が体の中で歌う。  それが幸せだった。  けれどこちらにきてから私が歌うことも、ピアノを弾くこともめっきりとへった。  それは簡単なことだ。  歌う事は、ピアノを、音楽をする事はどうしても桂の記憶と直結してしまう。  それが怖くてできなかった。  でも、それでも、私は音楽をやめられなかった。  回数が減ったとはいえ、やめる事はできなかった。  魂に刻まれた私の心がほっしていることなのかもしれない。  旋律をつむぐ。  それだけで、それだけで良かった。  そのときだった。
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