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「諒?」
そんな時唐突にかけられた声に私は跳ね上がるように顔を上げた。
「海月……」
夕日を背にした彼の表情はよく読み取れなかった。
「何でこんなところにいる」
私はじっと彼をみつめて、一番最初に浮かんできた言葉を率直に投げた。
「はぁ? そりゃこっちの台詞だ。
こんな建物の間でなにやってんだか。ほら、帰ろうぜ」
海月は私に手を差し伸べた。
よく見ると後の自転車には大量のビニール袋がぶら下がっている。おそらく買出しに行っていたのだろう。
「話しきくから。とりあえず、家に帰って飯食おうぜ。今日はアサリが安かったんだ。お前好きだろ?」
海月の言葉――その言葉に私は噴出した。
「お、お前は主婦か!」
盛大に噴出した私の頭を軽くはたいた海月を私は恨みがましく見上げた。
「誰かさんが生活力無さ過ぎて主婦にならざるをえなかったんじゃ」
「ああ、そうかもな」
ひとしきり笑い終えると「もういいか?」と、彼は再び手を差し伸べた。
私はその手を握って立ち上がる。
「オレ、クラムチャウダーがいい」
「あいよ」
彼とならぶと海月は若干照れているようで、耳を紅くしていた。
頭一個大きい彼のちょっと遠い耳が赤くて、若干笑えた。 昔からこうかわいいところがあるのだ。
「ああ、わかったよ。クラムチャウダーな」
思案顔で冷蔵庫の中身を思い出し始める海月に淡く微笑んた。
気持ちにひと段落ついたのか、私はその時初めて思い出した。
「あ、チャリ学校に忘れてきた……」
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