901人が本棚に入れています
本棚に追加
/1398ページ
*****
「あ」
諒を送り出して、机に座ったのもつかの間、俺は重大なことに気がついた。
財布を学校に忘れた。
どこに忘れたのだろう。あの中には生徒証も入っている。
つまりは寮部屋には入れないということ。
もっといってしまえば、今日の夕飯の買出しが出来ない。
「しゃあねぇか」
俺はクッションの効いた椅子から立ち上がり、生徒会室の電気を消した。
スーパー行く前に取りに行かないと……。
面倒、とおもいつつも財布が無いことには買い物はできない。
俺は自転車のチェーンを慣れた手つきではずして、すばやくペダルを漕ぎ出した。
文化祭の賑わいは生徒会館の近くまで聞こえてくる。
里に居たころはそもそも文化祭というもの自体が存在していなかったから俺としてはものめずらしい祭りにしか見えない。
里では武闘大会というものはあったが、いわゆる人間のする運動会や文化祭なんていうものはないのだ。
それもそれで悪くは無かった。
自分の実力を試せたから。
《禍》相手ではない。
殺し合いではなく、自分自身の純粋な力を試せたような気もする。
とはいえ諒が居なくなった後は骨のあるやつはあまりのこらなかった。
里は樹に囲まれて人間の町とは隔離されていた。
人間と会うことなんてめったに無い。
神獣は後々四神とよばれた朱雀、玄武、白虎、青竜になぞらえている。
竜族以外はみなそのまま玄武族などと呼んでいる。
玄武族は古来から人里はなれた場所で人間との接触を一切断っており、他は人間の中に紛れ、禍との戦いに身を投じている。
人間との距離はとりつつ、人間の中で生活する暮らしはけして楽なものではなかった。
俺たちは人間と姿が違う。
髪の色や瞳の色。
そして何より、月の光にさらされると黄金色に光る瞳。
俺たちは人間ではない。人間らしい形をしているけれど、筋肉も骨も人間とは比べ物にならないくらい強い。
結局化け物でしかないのである。
最初のコメントを投稿しよう!