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俺はその中に模造紙を持って駆けまわる少年の姿を見つけた。
「よぅー藤弥」
自転車から片手を離して手を振ると、子犬のような笑顔を浮かべた藤弥がいた。
彼は持っていた模造紙を取りこぼしそうになりながらも過ぎ去る俺に手を振ってきた。
俺より少し前にこちらに来たが、相変わらずである。
その様子に少しばかり安堵しながら、俺は少し速度を落して学校までの道を急いだ。
だいぶ道も覚えて俺はさほど時間もかからずに学校にたどり着いた。
自転車置き場に自転車を置いて、さっさと教室に向かう。
教室も文化祭の用意やらでいつも以上に騒がしかった。
俺たちのクラスは装飾の担当になっているので、高校棟のいたるところにちっているかおそらく教室には誰もいないだろう。
授業以外で戻ってくるとしたら資材を取りに来るときくらいだろう。
準備で足元にダンボールやら何やらが散っている廊下を謝りつつ、そしてふざけあいながら俺は進んでいった。
一番通るのが困難だったのが校舎内かもしれない。
自分の教室にたどり着いたときには熱気でか若干汗をかいていた。
廊下から一番近くの教室。
諒は遅刻をしなくてすみそうだと呟いていたのをふと思い出した。
教室に入ると、西日で眼が痛かった。
紅く、机は長く影を残していた。
「財布、財布っと」
俺は自分の机によると、机の中からはみ出しかけている財布を取り出した。押してそれを尻ポケットにねじ込んだ。
「ん?」
机の位置からは中庭が一望できた。そこには椎葉兄妹がいた。俺の視線に気づいたのか、綾切も雅切も同時に俺の姿を認めた。あの二人の目はとても苦手だった。何も感情がなくて。
そう、教育されて彼らはああなってしまったという事が悲しいというか、仕方ないというか、とてもやるせない思いになる。
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