1.5)4月24日 心が揺さぶられて仕方がないんだ

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「諒?」  諒はおびえるようにびくりと方をふるわせた。 「海月……」 「何でこんなところにいる」  じっと見つめてくる諒に俺は首をかしげながら、そっとてをのばした。 「はぁ? そりゃこっちの台詞だ。こんな建物の間でなにやってんだか。ほら、帰ろうぜ」  諒のことだ、何かあっても弱音を吐くわけがない。  でも、俺は一緒にいるということができる距離を手に入れた。 「話しきくから。とりあえず、家に帰って飯食おうぜ。今日はアサリが安かったんだ。お前好きだろ?」  まじめに言った言葉―――だったが、奴は盛大に吹き出した。 「お、お前は主婦か!」  反射的に軽く頭をはたいてしまった。  いつものことだから諒もわかっているだろう。  そして、恨みがましげに俺を見上げた。しるか、お前が悪い。 「誰かさんが生活力無さ過ぎて主婦にならざるをえなかったんじゃ」 「ああ、そうかもな」  ひとしきり諒は笑い終えると「もういいか?」と、俺は一度引っ込めた手を差し伸べた。  今度はしっかりとにぎって、立ち上がった。 「オレ、クラムチャウダーがいい。あれ好き」 「それだけじゃ飯になんねぇだろ」    ああ、こういうところでこいつとは気が合う。    俺も今日はクラムチャウダーを作る予定だった。  その諒との間合いが俺は好きだった。  でも同時にどこか照れくさくなった。 「ああ、わかったよ。クラムチャウダーな。とびっきりのつくってやる」  俺は笑顔で諒の頭をくしゃりとかき回した。  この生活がいつまでも続けばどんないいことだろう。  諒がいて、真那がいて……あの里にいたときのように暮らせたらどんなにいいだろう。  そんな夢物語を頭の中に描いて、すぐに消し去った。    今を生きられれば今は……いい。
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