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「はっ!」
私の切るような呼気が部屋に鋭く響く。
吹き飛んだのは――海月。
訓練場の壁に叩き付けられた海月は、ずるずると壁伝いに床に伏した。
「お前なぁ、木刀稽古弱すぎだろ」
「当たり前だ。俺は刀なんて使ったことねぇ」
彼は顔を歪めて腰を上げた。
多分、三分持たなかった。まあ、これでも進歩したほうか。
「結局体術も剣術もあんまり変わらない。隙を突くのはどっちも同じだろう」
「お前、教えろっていわれてそれしかいってないじゃないか」
海月は文句たらたらだ。
けれど、本気でないのが分かっているせいか、ほとんど無視だ。
彼がこちらに来てから大体二十日。
もう二週間近く彼に剣の稽古をつけているが、進歩しているといえば進歩しているのだが、していないといえばしていない。
動き自体はかなりよくなったが――刀の使い方がうまくいかないのだ。
峰で打つ、という行為はできるようになったが、「切る」までになかなか至らない。
「ここまでだ。立ってるのがやっとだろ」
背中を打ったからまともに動けるようになるまで数分はかかるだろう。
私は海月の木刀を拾い上げてさっさと稽古場を後にする。
「諒」
階段を下りている最中に真那が駆け上がってきた。
ペットボトルをいくつか抱えている。息が切れていて汗もかいていた。
「海月なら上。多分、派手にやったから傷見てやって」
「はいはい。また、やられたのね。世話のかかる《運命人》だこと」
真那はおどけたように笑うとペットボトルを一本手渡してくれた。
「あ……ありがとう」
「いいよ。海月のついでだから」
そういって、真那はさっさと階段を駆け上がった。
汗のかいたペットボトルはまだ冷たくて火照った体に気持ちよく、程よく温まった体をクールダウンするには丁度よかった。
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