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私は稽古場の建物を出ると、まっすぐ学生会館にむかった。
学園祭を二十日後に控えているせいか、各部署だけでなく時間までもが忙しないように感じる。
私自身は学生会の仕事のみで、それ以外といえば――何もない。
とりあえず、仕事は山積みだということだ。
幸い、海月が来たあの日から事件はおきていない。
朔耶が二日がかりで絞った人形師の情報も結局アリバイのはっきりしない奴らがあまりにも多すぎて絞れていないのが現状だ。
忍として育てられた綾切が独自に動いているようだが、結局犯人の割だしにはいたっていないようだ。
これで事件は終結したのか。銀のランクの奴らは大部分そう思っている。
けれど、これは勘としか言いようがないのだが、白銀の連中誰一人、終結にいたったとは思っていない。
嵐の前の静けさといったところだろうか。
結局のところ、相手は様子見で引いたのか、そもそもの策で引いたのかも分からない。
後者だと私は思っているが――いかんせん、どちらか判別する情報も大幅にかけている。
あの黒い烙印。
あの意味は一体何なんだ。
「ちっ」
私は舌打ちを漏らしつつ、携帯を開いた。
待ち受けにしてある空の写真の上に――珍しい名まえが浮き上がっている。
私は木刀を思わず落としてしまった。それくらい珍しいことで――うれしい? いや反対だ。
気味が悪い。
げんなりとした気持ちがメールを開く操作さえも億劫にさせた。
私はメールを開いて一気に読む――
そして、閉じた。二度目の舌打が思わず漏れた。
『今日、六時大学部美術科第三棟四〇三で待つ』
『那古真路』
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