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かつんと、自分の靴音で俺は我に帰った。
いけない。今日は沈みすぎている。
一年、その重みはあまりに重いのかもしれない。
いや、もっと待たなければいけないかもしれないのだ。
こんな、たった一年で、音を上げているわけにはいかない。
螺旋階段が唐突に途切れて、俺は少しだけ高くなっている最後の一段を降りた。
体に一瞬感じられた浮遊感。
現実と非現実の境をくぐったような感覚は未だに慣れない。
道があるかさえもわからない通路をほとんど感覚で歩いた。
遠くの様に見える赤い点、頭に痛い鼓動のような音の源でもあるその場所に向かっている。
遠くにあったはずの赤い点の姿が段々と定かになっていった。
アーチ状にくりぬかれた入り口をくぐると、綺麗に石をくりぬいた様なドーム型の部屋の壁いっぱいに複雑な文様を描いた真術陣が描かれていた。
赤より深い血のような深紅の色を持ってにぶく明滅している。
頭に直接響いてくるその鼓動のような音は慣れれば気持ち悪くなる位で済むが、慣れないうちは胃酸が出る程吐いていた。
中央へと歩調を変えることなく進んだ。そこには石で作られた寝台が一つ中央に置かれている。
これにも細部まで真術陣が描かれている。そこには一人の人が横たわっていた。
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