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「十一時か。ラッキー。ホームルームさぼれるか?」
「残念。
ホームルームが終わり次第学生は集合だって。私が伝言を頼まれたのはそっち」
心はうんざりしたようにいった。
表情の動きがあまりにもないのでそれを読むのは非常に難しい。
用件だけを言いつけて、すぐに踵を返した心はつかつかと人の未だ捌けない廊下を足早に通っていく。
冷然とした姿であったが、誰もとがめることはないし、ある意味敬遠こそしているが、それは彼女の性格からではないことを誰もが知っている。
彼女が特別だから――近づくのに勇気がいるだけなのである。
私はそんな彼女のあとを追う。
「で、心さんは音楽室にいてまた朔耶につかまったと」
私は背後から彼女に耳打つと心はきっと私をにらんだ。
「――俺に期待するな。後で、な」
振り返って足を止めた心の耳元でそう、私は囁いた。
誰にも聞こえないようにそっと、耳打つ。釈然としないのか、心の視線が背中に痛かった。
足を止めたまま、動く気配のない心を残したまま、階段を上る。
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