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1)20xx5年4月5日どちらかが変わったなら、どっちも変わった
「ああ、…………死んだんだ」
無味な言葉を口からこぼして、私は足元に転がっている二人の死体を見下ろした。
見知った顔なのに特に悲しいとか怒りに似た感情はわいてこなかった。
とはいえ、少々疎遠だったからといってしまえばそれまでだ。
二人とも、胸を杭のようなもので一突きされており、
さらに男のほうは首と胴体を切り離されて四肢もばらばら。
女のほうは顔も体もほとんど皮膚だとわからなくなるほど切り刻まれてやはり、胴体も四肢もばらばらになって死んでいた。
男のほうはといえば、切り離された首の目が不自然に落ち窪んでいる。
おそらく、眼球がないのだろう。
私は、腰を上げた。
そうして初めて、二つの死体を見下ろす形になった。
紅い血溜りの中に沈む青白い体は酷く鮮明で酷くあやふやだ。
まだ生の力を宿した体にはその青白さは酷く不釣合いで
月に照らされた青白い肌はまだ一向に硬さを失っていなくて
それはとても生を詠っているようで――
美しいと思うと同時に、
憎いとも思った。
私は紅い血溜りに映る自分の姿を見た。
そして、その後ろに月を見た。
「綺麗……」
私は何故か歌うようにその言葉を口にした。
血溜りに沈む頭。
その先にあるはずの体に私は視線を向けた。
ぼろぼろに切り刻まれた服。その下にある背に焼け爛れた丸い火傷の刻印。
「無様だな――鵜野原」
私は頭上にある月に歌うようにその言葉を紡ぐ。
旋律は酷く悲しく、私の中で小さな響きしか与えなかった。
これがハジマリだと、私は気づくよしもなかったのである。
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