『隣の柏崎さん』

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 うちの学校は、少し不思議だ。男女共学を謳っている割には、男女の接触を極端に制限されている。  体育の別々の授業はもちろん登下校はおろか、休み時間の会話も禁止されているし、学食ですら別々の建物を利用しなくてはならない。クラスの中ですら、左右に綺麗に分かれて座り、真ん中には机の高さまで板の仕切りがあるくらいだ。  噂では、昔男女の不純異性交友が元で警察まで駆け付ける事態にまで発展した事に原因があるらしい。迷惑な話だ。  しかし、男女の接触が制限されていると言っても、完全に絶たれている訳ではなく、また、それが色々と問題なのだ。  周りもそうであるように僕にも好きな人がいる。しかし、極端に制限されているせいで、尚更気になってしまうのだ。  柏崎由依、彼女は、板を挟んだ隣の席にいる。  彼女はクラスの中では至って普通。目立たない方だろう。髪も染める事なく純粋で艶やかな長めの黒髪。多少幼さが残るが整った綺麗な顔。制服もさりげなく着崩し、自然と自分なりのスタイルを保っている。いつまでも見ていたいくらいだ。  しかし、今は授業中、そういうわけにも行かない。 「えー、環境に対する配慮は……」  と、担任は黒板に向かってチョークを走らせながら喋っているが、いつ振り替えるか分からないのだ。それに、しっかりと聞いておかないとテストで大変な目に……ん?  なんだ?  板の向こう側から何か飛んで来て、机の上に乗った。 「紙飛行機?」 「ん? どうかしたか川口」 「あ、いえ、なんでもありません」  慌てて机の下に紙飛行機を隠す。  先生がまた黒板を向いたのを見計らってちら、と板の向こうの彼女を見る。そして、紙飛行機をそっと開けて行く。  ドキドキしていた。  まさか、まさか。 『今日5時半、喫茶フランで待ってます。柏崎由依』  僕は思わず叫ぶ所だった。  代わりに膝を机にぶつけてしまったけど。 「おいおい、一体どうした? 大丈夫か」 「え、あ、はい、大丈夫です」  必死に取り繕う。ばれたら大変だからだ。  それにしても……。もう一度ちらりと、僕は柏崎さんの方を見る。  うわ、ばっちり目が合った。ちょっと顔が赤い。可愛いなぁ。  僕はこくん。と頷いて、了解の意を示す。  5時半か……。  凄く、楽しみだ。
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