冷たい胸にキス

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「分からないってなに?」 「だって君はわたしに死んでほしいの?」 まだ二回しかキスもしてないのに。 からかう様にそう返したのは、単に普段ひねくれて皮肉ばっかりな、彼女の素直な質問が可愛いかったから。 わたしが肺炎にかかったのは、夏の終わりのまだうっすらと汗ばむ季節。 咳き込んだ胸が痛くて、口もとから手をはなすと、そこにはべったりと赤い血がついていた。 伝えなくちゃいけないと分かってはいたのだが、繊細な彼女がショックを受ける姿を見るのが嫌だった。 でもそうやってぐずぐず真実を引き伸ばして、今彼女は傷ついている。 「馬鹿なこと言わないで」 うつむいていた彼女は初めて顔をあげて、わたしのことを見た。それで気がついた。大きい瞳が濡れている。彼女は泣いていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加