2.自動販売機

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「謝るつもりなら、何も言わないで、絶対。あなたとあたしの常識が違うだけ。日本人とアメリカ人が、話しているようなものなのよ。あなたは、アメリカ人と常識が違ったら、謝る?へぇ、そうなんだって、頷くだけでしょう」 向こうが謝ろうとしていようがしていまいが、関係ない。 どんなに狭かろうが、あたしの常識はあたし自身だ。 それを謝られることは、あたしを否定されるも同意。 せめて、軽蔑したくなかった。 自分が軽蔑する前に、その芽を摘んでおきたかった。 維人は話せる人だと、信じたかった。 「……その場合、どっちがアメリカ人?」 その一言に、ひどく安心する自分がいた。 「バカ」 「どうせバカです。……で、どこが悪いんだっけ?」 「心臓。激しい運動や極度の緊張は大敵。ここには、良い医者がいるって聞いて。……でも、ダメそう」 「何で?」 「笑顔が、ダメな感じ」 初めて病名を言われたときの医者の顔、今でも覚えている。 言葉に出さなくても、全身で「残念ですね」と言っていた。 諦めて諦めて、諦めて方を知っている笑顔。 あの顔は、大嫌い。 「あなたは?どこが悪いの?」 「ん~……何だっけな。内臓関連だったと思ったけど」 「何それ。アバウトすぎる」 「医者の話、よく聞いてなかったんだよ。……あ、手術とか、あんま大変な治療は、しなくて良いっぽいっていうのは、聞いてたよ」 「……それは、良かったわね」 維人はいつまで経っても、何も言わなかった。 別れ際でさえ、明るく手を振っていた。 人というのは、自分の好奇心を満たすため、もしくは自分の立ち位置を守るためなら、他人なんて気にしないのだと思っていた。 親戚でさえそうで、あたしを見るとまず真っ先に「可哀想」。 泣き出す人もいる。 そしてあたしは、そんな奴らを迎え入れない。 すると、奴らは無意味な怒りを残して帰っていく。 お母さんに、それを注意されたことは、何度もある。 しかし、あたしはそれだけは、幾らお母さんでも突っぱねる。 だって、あたしは可哀想なんかじゃない。 「可哀想」なんて、所詮は自分が優位に立ちたいがための決まり文句だ。 それを言われたらもう可哀想で、そのまま、人生は終わる。 一生、可哀想でいなきゃならない。 何もしなければ、あたしの人生なんて、短いとも言えない程呆気ない。 でもそのことと、自分自身が可哀想かどうかは、また別の話だ。
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