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窓のサッシは、空気に触れられるままその温度を下げ、乗せているあたしの手に、冷気を伝える。
冷たいと感じる。
だから、あたしは考える。
残った1ヶ月の間に。
維人は、明日も来る。
ブォン
不可解な音が、開いた窓の外から聞こえた。
空いている空間に顔を押し付け、下を見ると、1人ポツンと立った、消えそうにチカチカ光る街灯の下で、何かが白っぽい煙を出していた。
なぜだか、あたしにはその正体が分かった。
維人だ。
あの煙を出しているのは、バイクだった。
あいつは、こんなに寒い夜遅くに、バイクで遊びに行くのだ。
「……病人のクセに」
たまらなくなって、窓を閉めた。
凄く、バカらしい。
あいつは、普通の人だ。
普通の生活を知ってる、ただの病人だ。
あたしは、何も期待なんかしていなかったはずなのに。
……いや、期待なんかしていないと、思っていただけだ。
病院で暮らして、それがあまりにも長すぎて、人との話し方すら分からなくなり始めて、諦めきっていると、自分でも思い込んでいた。
でも、それは間違いだ。
人は、人を思い切ることなんて、できない。
延々自分が大切で、ずっと周りが気になって、死に方1つ、満足に思い通りにならない。
ベッドから、足を下ろす。暖かい室内の床は生温く、裸足でも全く問題ない。
眠気は、どこかへ飛んでった。
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