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その日、病院の屋上には、冷たい風が吹いていた。
灰色の雲が町全体を覆い尽くし、山の緑も、立ち並ぶ家々の屋根も、灰色がかって見える。
手すりから身体を乗り出して下を見ると、見た目ばかり清潔な白い壁の先に、濃い灰色のアスファルトが広がっていた。
ここから飛び降りたら、痛みも無く死ねるだろうか。
五階という高さが、何メートルくらいあるのか、あたしは知らない。
人間が、どのくらいの高さから飛び降りたら死ねるかも、知らない。
だから、決心がつかない。
痛みを感じるのは、嫌だ。
長く風に吹かれて、髪はぐしゃぐしゃ。
手すりを握った手には、感覚が無かった。
いつもなら、この辺りで気力が失せてくる。
痛いのが嫌で、失敗したらもっと嫌で、ただ生きるのなんて、もっとずっと嫌なのに……。
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