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1.苺ミルク
左側にお母さん。
右手には点滴。
お母さんと2人だけでいる時間は長すぎて、今では会話もろくにない。
熟年夫婦が離婚を決意する時は、こんな感じなんじゃないかと、時々思う。
「あ、もうこんな時間。お母さん、行かなくちゃ」
それまでボケッとしていたお母さんが、あたふたと動き始める。
「行ってらっしゃーい」
「行って来ます。可也、良い子で大人しくしてるのよ」
「はいはい」
「ご飯ちゃんと食べて、薬も嫌がらずに飲むのよ」
「分かってるって」
良い子とか、嫌がらずにとか、小学生にでも言うような言葉たち。
多分、もう癖になっているのだ。
彼女の感覚は、果てしなく鈍くなっている。
仕事と病院通いの毎日で、あたしがもう14歳だってことも、忘れてしまったように見える。
父親は、きちんといる。
今も家に住んでいるし、日曜日にはお見舞いに来る。
仕事もしてる。
知っている。
両親が前程近くないことも、別れないのも、あたしの所為だって。
点滴が終わった。
ナースコールを押すと、すぐに看護士がやって来て、愛想も無しに、器具を片付けて去っていった。
点滴をしたばかりだというのに、やけにのどが渇いて、あたしはお財布を片手に、部屋をでた。
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