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一階、非常口近くにある自動販売機。
1日に一回は必ず来る。
あたしのお目当ては、ここにだけある。
料金は120円。
一番上の段のボタンを押すために、あたしは少しだけ背伸びした。
「苺ミルクか……。乙女だねっ」
あたしの手が届くより一瞬はやくボタンが押され、紙パックが受け取り口に落ちた。
「はい、どーぞ。こけし姫様」
やはり、あたしが行くよりはやく、目の前に紙パックが差し出された。
「あたしはこけし姫じゃありません。……で、それはあげる」
「え……それはもしかして、俺が触ったからとかそういう……」
「違うわよ。……お礼っていうか……昨日、結果としては、助けられたようなものだから」
前半の言葉は無視された。
あいつは不思議そうにこっちを見ながら、ゆっくり苺ミルクを自分に引き寄せた。
「俺、別に助けたとかの意識じゃ無かったんだけど」
「こっちが勝手にそう解釈してるんだから、余計なことは言わない方が身のためと思うわ。……何よ、十円玉無いじゃない」
財布には、十円玉はあと1つしか無かった。
お釣り出したくない派のあたしとしては、とてもイラッとするシチュエーションだ。
仕方無く、150円を入れる。
ピッ
背伸びする間もなく、再び牛乳パックが取り出し口に落ちた。
硬貨が落ちてくる固い音も聞こえて、あたしはしゃがんで紙パックを手に取った。
「ほい」
「……どーも」
お釣りがあいつの手から渡された。
あいつと目を合わせないようにして、それを素早く財布にしまい込む。
そのまま、1人で近くのベンチに座った。
ストローをさして、中の液体を吸い込む。
甘くて冷たくて、まろやかで美味しい。
「何でここなの?」
1人が座れる空間を空けて、あいつも座った。
「似たようなジュース、もっと近いとこにもあるでしょうに?」
「苺オレは邪道。苺ミルクはここにしかないの。だからここに来る、それだけ」
「いつも来るんだ」
「悪い?」
「いや。……てっきり、最後の晩餐かと疑ってしまいましてね」
思いっきりむせた。
そして、理解した。
この人は、あたしがまた死のうとしてると分かってる。
だから、止めようとしている。
「昨日、死のうとしてたんでしょ?」
答える代わりに、何度か余計にせきをした。
「だったら、何で助けられたとか言うの?」
あたしの中の死にたいという感情は、いつも突然にやって来る。
例えば、「頑張って」
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