1.苺ミルク

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一階、非常口近くにある自動販売機。 1日に一回は必ず来る。 あたしのお目当ては、ここにだけある。 料金は120円。 一番上の段のボタンを押すために、あたしは少しだけ背伸びした。 「苺ミルクか……。乙女だねっ」 あたしの手が届くより一瞬はやくボタンが押され、紙パックが受け取り口に落ちた。 「はい、どーぞ。こけし姫様」 やはり、あたしが行くよりはやく、目の前に紙パックが差し出された。 「あたしはこけし姫じゃありません。……で、それはあげる」 「え……それはもしかして、俺が触ったからとかそういう……」 「違うわよ。……お礼っていうか……昨日、結果としては、助けられたようなものだから」 前半の言葉は無視された。 あいつは不思議そうにこっちを見ながら、ゆっくり苺ミルクを自分に引き寄せた。 「俺、別に助けたとかの意識じゃ無かったんだけど」 「こっちが勝手にそう解釈してるんだから、余計なことは言わない方が身のためと思うわ。……何よ、十円玉無いじゃない」 財布には、十円玉はあと1つしか無かった。 お釣り出したくない派のあたしとしては、とてもイラッとするシチュエーションだ。 仕方無く、150円を入れる。 ピッ 背伸びする間もなく、再び牛乳パックが取り出し口に落ちた。 硬貨が落ちてくる固い音も聞こえて、あたしはしゃがんで紙パックを手に取った。 「ほい」 「……どーも」 お釣りがあいつの手から渡された。 あいつと目を合わせないようにして、それを素早く財布にしまい込む。 そのまま、1人で近くのベンチに座った。 ストローをさして、中の液体を吸い込む。 甘くて冷たくて、まろやかで美味しい。 「何でここなの?」 1人が座れる空間を空けて、あいつも座った。 「似たようなジュース、もっと近いとこにもあるでしょうに?」 「苺オレは邪道。苺ミルクはここにしかないの。だからここに来る、それだけ」 「いつも来るんだ」 「悪い?」 「いや。……てっきり、最後の晩餐かと疑ってしまいましてね」 思いっきりむせた。 そして、理解した。 この人は、あたしがまた死のうとしてると分かってる。 だから、止めようとしている。 「昨日、死のうとしてたんでしょ?」 答える代わりに、何度か余計にせきをした。 「だったら、何で助けられたとか言うの?」 あたしの中の死にたいという感情は、いつも突然にやって来る。 例えば、「頑張って」
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