3.雪

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3.雪

月は、好きだ。 特に、細い三日月。 下弦の月は、一番好き。 命を、表しているような気がする。 病気には溺れないけど、そういった関連付けは、よくしてしまう。 顔の半分くらい、窓を開けた。 もうとっくに消灯時間は過ぎていて、明かりの1つも無いこの部屋は、外も内も真っ暗で、見分けがつかない。 病室が常に一定の温度だからか、外の空気は段違いに冷たくて、闇と対照的に白い息に、少し驚いた。 眠れない。 眠れる訳がなかった。 『成功率は、20~30%です』 今日聞いた、医者の言葉。 せっかく手術できる人がいても、これだ。 手術なんてしようがしまいが、どちらにしろあたしは、死ぬしかないのだ。 20~30%。 凄く微妙な数字だ。 これなら、手術は出来ないとはっきり言われた方が、幾らもましだった。 手術を受けなければ、あたしは死ぬ。 手術を受けても、70~80%は失敗。 その際、死ぬ確率だって、高いだろう。 重い病気の人間は、いつだって死を受け入れていると思われがちだが、そんなこと有り得ない。 あたしは、死ぬのがとても怖い。 でも、あたしの命が確実に保たれる方法は、今のところ無い。 重い病気の人間が、命に投げやりになるのは、本当だ。 死ぬのは嫌だが、確実に死ぬ。 そのことを、幼い頃から突きつけられている。 投げ出すと言うより 、諦め。 医者は、待つと言った。 最大で1ヶ月。 それまでに、答えを出せと。 どちらにしろ、消えてしまう命。 どうやって、希望を持てと言うのだろう。 小さい頃から探した、生き延びる手だて。 お母さんは、何も言わなかった。 あたしの肩を一度叩いたきり、何も言わずに仕事に行った。 手術……受けた方が、まだ望みはある。 生き残りたいなら、受けるべきだ。 むしろ、受けなければならない。 苦しみながら死ぬなんて、惨めで、みっともない。 見られることが分かって分かっているから、余計にみっともない。 その点、1人で自殺できるなら、そのほうが良い。 飛び下りは後々が汚いけど、見られていることを自分で認識はしない。 自殺は駄目だ。 そんなこと、分かりきっている。 それでもそう考えてしまうのだから、あたしの決意も薄っぺらい。 オブラートよりもペラペラだ。 いっそ、死んでしまいたい。 今は、そう思う。 あまりにも希望が無くて、投げ出せたら、どんなに楽だろうと。
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